レンタルスペースの開業を検討するとき、最初に気になるのは「この市場に本当に需要があるのか」「今から参入しても間に合うのか」という2点ではないでしょうか。本記事では、公的統計・市場調査・民間企業の発表データを使って「レンタルスペース市場の現在地」を数字で読み解きます。市場の規模・成長・将来性に加えて、市場全体の伸びとは別に「個店として勝てるか」を判断する枠組みまで整理するので、事業計画の作成や融資相談の準備にそのまま使えます。数字はすべて出所を明示しています。
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レンタルスペース市場の規模は?最も近いデータで見る現状
レンタルスペース単体の統計は存在しない
先に結論を確認します。レンタルスペース単体の売上規模をまとめた公的統計は、現時点では存在しません。国土交通省や総務省の統計にも「レンタルスペース」という独立のカテゴリはなく、業界団体による統一調査もありません。そのため「レンタルスペース市場は○○億円」と名乗る数字は、いずれも独自の定義による推計です。数字を比べるときは、まずこの前提を押さえてください。
本記事では、レンタルスペースに最も近い公的指標である「スペースシェア市場」を中心に、補助的に貸会議室市場・シェアリングエコノミー全体・空き家統計を組み合わせて、市場の現在地を読み解きます。
最も近い指標「スペースシェア市場」は3,797億円(2022年度)
スペースシェア市場は、2022年度に3,797億円でした。コロナ禍で一時縮小した市場が、その後回復して拡大基調にあります。(出典:情報通信総合研究所×一般社団法人シェアリングエコノミー協会「シェアリングエコノミー市場調査 2022年版」)
この数字は、レンタルスペースを含む「空間の時間貸し・シェア」全体の取引額の目安です。まずは「レンタルスペースを含む市場が、3,000億円超の規模で回復・拡大している」という現在地を押さえてください。定義の詳細と読み方の注意は、次の章で説明します。
市場規模の数字を正しく読む|調査の定義と限界
シェアリングエコノミー市場調査とは(取引金額ベースの定義)
シェアリングエコノミー市場調査の数字は「取引金額ベース」で、市場に流れた取引の総額を集計したものです。プラットフォーマー(仲介事業者)の売上や手数料収入ではありません。「市場規模」と「運営事業者の売上」は別物だと理解しておきましょう。あなたが物件を時間単位で貸し出した場合、その取引額が市場の取引金額として計上されるイメージです。
スペースシェアに含まれる範囲(民泊・コワーキング等)
スペースシェア市場には、レンタルスペースのほか、民泊、コワーキングスペース、シェアキッチン、会議室の時間貸しなど、空間を時間単位で貸し借りするさまざまなサービスが含まれます。つまり「3,797億円」はレンタルスペース単体の数字ではなく、それらを含む市場全体の数字です。レンタルスペース単体の正確な金額は、公的統計の範囲では把握できないことを前提に、以下を読み進めてください。
補助データ:貸会議室市場698億円(2018年・矢野経済研究所)
市場内での位置づけを確認する補助データとして、貸会議室市場の調査があります。貸会議室市場は2018年に698億円で、前年比113.7%と拡大していました。(出典:矢野経済研究所「2019 空間活用ビジネスの事例研究と動向調査」)
この数字は2018年時点でやや古く、コロナ禍の影響も反映されていません。現在の市場規模の目安としてではなく、「空間貸しビジネスの一角である貸会議室だけでも600億円超の市場がある」という市場構造の確認に使うのが適切です。
需要はなぜ伸びているのか|成長を支える要因
リモートワーク定着と会議・作業スペース需要
需要拡大の背景の1つが、リモートワークの定着です。「自宅では集中できない」「オンライン会議の環境がない」というニーズが、1時間単位で借りられる作業・会議スペースへ流れています。企業の固定オフィスが縮小傾向にあるなか、必要なときだけ空間を借りる時間貸しの需要は、その受け皿として成長しています。
撮影・動画配信など利用の多様化
もう1つの成長要因が、利用の多様化です。SNSや動画配信の広がりで、白背景の撮影スタジオや配信環境の整ったスペースへの需要が生まれています。趣味の活動に場所を確保したいというニーズも広がり、大手予約プラットフォームの発表では、推し活(アイドルやキャラクターなどの応援活動)向けスペースの掲載件数が3年で20倍、ボードゲーム向けスペースが2.4倍に増えています。(出典:大手予約プラットフォーム(A社)「プレスリリース」(2024年2月20日))
「仕事の場」から「趣味の場」まで借り手の目的が多様化していることが、市場拡大の実感につながっています。
プラットフォーム拡大が示す需要(掲載3万件超)
同じ発表では、レンタルスペース予約プラットフォームの掲載スペースが3万件を超えています。(出典:大手予約プラットフォーム(A社)「プレスリリース」(2024年2月20日))
掲載件数の増加は供給側の増加ですが、貸し手が増える背景には借り手の需要があります。供給が増えている=需要で回っているエリアがある、というシグナルとして読むのが実務的です。ただし、供給の増加は後述する価格競争の原因でもあるため、両面で捉えてください。
供給側のポテンシャル|空き家900万戸という参入余地
空き家・空き店舗の実態(空き家率13.8%・総務省)
参入余地を供給面から確認すると、まず挙がるのが空き家のストックです。2023年10月1日時点の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最高を更新しました。2018年の調査(848万9千戸)から5年間で51万3千戸増えています。(出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」)
空き家のすべてがレンタルスペースに転用できるわけではありません。耐震性・設備・立地などのハードルがあります。それでも、遊休不動産という「使われていない空間」の母数が大きいことは、物件調達の選択肢が一定数あることを示しています。
遊休不動産を時間貸しにするモデル
空き家や空き店舗、事務所の一部など、従来は放置されがちだった空間を時間単位で貸し出すのが、レンタルスペースの基本的なビジネスモデルです。所有者にとっては固定費のかかる空間を収益化できる手段になり、借り手にとっては1時間から使える手軽な選択肢になります。物件の探し方や契約・転貸の注意点は本記事の範囲外のため、物件選びの解説記事を参照してください。
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将来性の見通し|2032年度の市場予測
スペースシェア市場の2032年度予測(最大4兆8,458億円)
将来性を確認するため、市場調査の中期予測を見てみましょう。スペースシェア市場は2032年度に、課題解決型のシナリオで最大4兆8,458億円まで拡大する余地があると予測されています。同じ調査では、シェアリングエコノミー全体が最大15兆1,165億円と予測されています。(出典:情報通信総合研究所×一般社団法人シェアリングエコノミー協会「シェアリングエコノミー市場調査 2022年版」)
2022年度の3,797億円から10年で10倍超という予測は、中長期の拡大余地が大きいことを示しています。
予測の前提:課題解決シナリオを保守的に読む
ただし、この予測は「課題解決シナリオ」という前提に基づく、いわば楽観的なシナリオです。規制・社会環境・技術の普及度合いによって、実際の規模は大きく変わる可能性があります。予測数字は「拡大余地がある」ことを確認する材料として使い、将来の売上を約束するものとして読まないことが重要です。実際の収益計画は、後述する個店ベースの判断で組み立ててください。
シェアリングエコノミー全体の成長(2024年度3兆1,050億円)
より新しい動向として、シェアリングエコノミー全体の市場は2024年度に3兆1,050億円と、初の3兆円台に到達しました。2022年度の2兆6,158億円から拡大しています(スペースシェア単独の2024年度数値は、公表資料では未確認です)。(出典:情報通信総合研究所×一般社団法人シェアリングエコノミー協会「シェアリングエコノミー市場調査」(2024年度結果・報道資料))
シェアリングエコノミー全体が拡大を続けるなか、レンタルスペースはその中核分野の1つとして位置づきます。市場そのものが縮小に向かっているわけではない点は、参入検討の前提になります。
市場の「飽和」論を正しく読む|事業性判断の枠組み
供給の増加と価格競争の始まり
ここまで見たとおり、市場は拡大基調にあります。一方、掲載スペース3万件超という供給の増加を受けて、価格競争も始まっています。立地の良い物件には借り手が集まる一方、差別化できない物件は価格を下げざるを得なくなっています。「レンタルスペースを開けば楽に儲かる」時代は終わったとみられ、現在は「選ばれる理由」を作れるかどうかが問われる段階です。
市場の伸びと個店の儲けやすさは別問題
ここで押さえたいのが、「市場が伸びていること」と「個店が儲かること」は別問題だという点です。市場規模の拡大は「参入する土俵がまだあるか」を判断する材料になりますが、あなたの物件の収益を決めるのは、稼働率・時間単価・運営コストです。市場が伸びていても、需要のない立地に需要と合わない用途の物件を作れば稼働率は上がりません。逆に、市場全体が頭打ちでも、特定の立地・用途では十分な需要を掴めているケースもあります。
事業性を左右する3軸(立地×用途×価格帯)
個店の事業性を左右するのは、次の3つの軸です。
- 立地:徒歩圏人口、駅からの距離、周辺に需要の出所(オフィス・学校・撮影スポットなど)があるか
- 用途:誰に何のために使ってもらうか(会議・作業・撮影・推し活・自習など)
- 価格帯:時間単位でいくら貸すか。周辺相場と比べて需要が集まるか
この3つを「市場全体の伸び」ではなく「参入するエリアと用途」に落とし込んで決めるのが、開業判断の本質です。運営の現場でも、撤退に至る理由は「立地」「家賃」「契約条件」「コンセプトのズレ」に集中する傾向があります。(出典:note「2025年 レンタルスペースの需要は?飽和感の正体と需要の見つけ方」)いずれも開業前に決められる要素で、事前の検討でリスクを減らせます。

エリアの需要を調べる手順
具体的な調査手順を整理します。
- 競合の稼働状況を見る:予約サイトで候補エリアの近隣物件を検索し、1週間の空き状況を確認します。平日・休日の埋まり具合が需要の目安になります。
- 需要の出所を確認する:周辺のオフィス、学校、イベント会場など、誰が時間貸しを必要としているかを洗い出します。
- 徒歩圏人口と家賃相場を確認する:駅近・車でのアクセス・駐車場の有無などの立地の強みと、固定費になる家賃の相場を把握します。
- 価格帯をリサーチする:近隣物件の1時間あたりの料金と、その料金で埋まっているかを確認し、自物件の価格帯を決めます。
この調査は、市場予測より優先度の高い開業判断の材料です。差別化できる立地×用途×価格帯が見つかれば、市場全体の動向に関わらず参入を検討する価値があります。
参入後の運営を左右する仕組み
立地×用途×価格帯を決めたあと、個店の稼働率を左右するのが運営の仕組みです。24時間受け付けられる予約管理、当日予約を含む予約の取りこぼし防止、決済の自動化、無人運営を支えるスマートロック連携などが挙げられます。こうした仕組みは、人件費・運営コストを抑えながら空き時間を減らす手段として、価格競争が進むなかでの差別化につながります。
まとめ:数字で見る市場の現在地が開業判断の土台になる
この記事のまとめ
- レンタルスペース単体の公的統計は存在しない。最も近い指標であるスペースシェア市場は2022年度に3,797億円(情報通信総合研究所×シェアリングエコノミー協会)と、コロナ禍から回復して拡大基調にある
- 需要はリモートワーク定着・撮影配信・推し活などで多様化し、供給側には空き家900万戸(空き家率13.8%・総務省)という参入余地がある
- スペースシェア市場は2032年度に最大4兆8,458億円(課題解決シナリオ)と予測されるが、前提次第で幅があり、保守的に読む必要がある
- 市場の伸びと個店の儲けやすさは別問題。事業性を決めるのは立地×用途×価格帯の3軸で、市場予測よりエリア調査が優先される
よくある質問
Q. レンタルスペース市場の規模はどれくらい?
A. レンタルスペース単体の公的統計はありません。最も近い指標であるスペースシェア市場は2022年度に3,797億円(情報通信総合研究所×シェアリングエコノミー協会)、貸会議室市場は2018年に698億円(矢野経済研究所)でした。詳細は「レンタルスペース市場の規模は?」の章をご覧ください。
Q. レンタルスペース市場は伸びている?
A. コロナ禍で縮小したあと、回復して拡大基調にあります。シェアリングエコノミー全体は2024年度に3兆1,050億円と、初の3兆円台に到達しました。詳細は「需要はなぜ伸びているのか」の章をご覧ください。
Q. レンタルスペースは飽和している?
A. 供給の増加で価格競争は始まっていますが、完全な飽和ではありません。立地×用途×価格帯の組み合わせ次第で勝てる余地が残る市場です。詳細は「市場の『飽和』論を正しく読む」の章をご覧ください。
Q. レンタルスペース市場の将来性は?
A. スペースシェア市場は2032年度に最大4兆8,458億円規模(課題解決シナリオ)と予測されています。ただし予測は前提条件次第で幅があるため、保守的に読む必要があります。詳細は「将来性の見通し」の章をご覧ください。
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市場の現在地と事業性判断の枠組みを確認すると、参入後に勝ち残るためには「立地×用途×価格帯の選択」に加えて、「予約の取りこぼしを防いで稼働率を上げる仕組み」「無人運営で人件費・運営コストを抑える仕組み」が必要になることが見えてきます。
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監修者情報
望月 直紀
約10年にわたり、無人施設の運営やスマートロック関連の業務に携わる。自身でも複数の施設運営を経験し、予約管理や無人運営、収益改善など、施設運営の実務に従事。現場で感じた「業務効率化だけでなく、利益向上まで支援できる仕組みが必要」という課題をもとに、施設運営向け予約管理システム「Spekan」を立ち上げる。施設運営・無人化・予約管理に関する実務経験を活かし、記事を監修。
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